カレーは立派な日本料理

 子供の好きな食事のベスト3には、必ず入っているカレー。本場のインドは別として、日本人ほどカレー好きな国民はいないのではないでしょうか。

 その本家本元のインドでは、日本のように市販のカレー粉やカレールウで調理するのではなく、常備している何十種類ものスパイスの中から、その日の素材や家族の好みに合わせて10種前後のものを自在に組みかえ、日替わりメニューの料理に仕上げています。しかも、「カレー」という料理や用語はインドにはありません。素材とスパイスの組み合わせの違いや調理法の違いにより、それぞれ固有の料理名がつけられ、何百種類もの辛くてスパイシーな料理があり、これを欧米や日本では総称してカレーと呼んでいるのです。
 インドのカレーは、香辛料と水、塩だけで煮るので、汁はさらっとしています。それが17世紀にインドを植民地としていたイギリスに渡り、さらにフランスでアレンジされると、小麦粉を使ったどろりとしたものに変わっていきました。

 日本のカレーは、インドから直接渡ってきたものではなく、ヨーロッパ経由のものなので、どろっとしているのです。日本へは、文明開化の明治初期にイギリスから伝えられ、米飯と結びついてライスカレーが生まれました。これがいつつくられたかというのは、はっきりわかりませんが、明治5年に出版された『西洋料理指南』という本には、すでにカレー料理が出ています。
 ところが、その材料は、ネギ、生姜、ニラ、鶏肉、エビ、タイ、カキと日本古来の材料ばかり。発祥地インドでは、かなりの量の玉ネギとトマトを煮くずしてトロミをつける調理法が中心になっていましたが、まだ、玉ネギもトマトもわが国へは伝えられていませんでした。どんな味がしたのか、おそろしいものがあります。

 そんなカレー料理でしたが、一つ注目すべきことがあります。日本では、主食がお米だったため、カレー料理は当初からご飯にかけて食べる、つまりライスカレーとして紹介されているのです。ハイカラで高級な西洋料理として上流社会でもてはやされたライスカレーですが、本場インドやイギリス、フランスなどヨーロッパのカレーとは、似ても似つかない独特の食べ方をしているのです。つまり、はじめから日本流西洋料理、あるいは日本流インド料理といも言えます。インド人は、「日本のカレーは日本料理」とさえ言うそうです。

 明治10年、西洋料理店風月堂のメニューにライスカレーが登場、明治39年には、インスタントカレーのはしりともいえる「カレーライスのタネ」が神田の一貫堂から売り出されています。
 また、最初にインド直系のカレーを取り上げたのが、新宿・中村屋。これはオーナーの娘婿がインド独立の志士、ラス・ビハリ・ボースで、「日本ではわが故郷の料理がザツに扱われている」と嘆いたことから、インド貴族が好むような最上のカレーを売り出したといいます。そのカレーは、もりそば8銭、一般のカレーで10銭の時代に、80銭もする高級料理でしたが、大勢の客が押し掛けたそうです。

 日本人は、繊細な味覚を持っているといいます。インドのカレーは、10種類くらいのスパイスで作るのですが、日本のカレーは30種類以上ものスパイスを駆使し、芳香とほどよい刺激的な辛味をそなえているそう。スパイスの芸術品と言っても過言ではありませんね。


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