ココナツミルクを使うのは王族限定!?

 東南アジア料理=辛い、という先入観みたいなものがありますが、東南アジアのお菓子は一般的に非常に甘い、というのも、うなづけるところでしょう。

 インドの裏道を歩いていたとき、大きな鍋に牛乳を入れて、それを煮詰めて煮詰めて、お菓子をつくっているところを見たことがあります。食事が辛いので、その反動もあって、お菓子は甘いのでしょうか。
 東南アジアでよく使われる甘いもの、と考えると、ココナツミルクを思い浮かべることでしょう。これは、ココヤシの実の果肉を削り、水を加えて絞ったもの。ココナツミルクは、菓子にも使われますが、料理にも使われています。料理用は、そのまま料理に入れるものと、加熱して分離した油を使うものの2種類あります。工場で生産される食用油が出回る以前は、ココナツミルクから取った油か、動物の脂を利用していたといいます。したがって、揚げ物というのは、非日常的な料理だったといっていいでしょう。
 一方ココナツミルク自体、日常の料理に使うものではなかったとようです。今でこそ、市場に行けば、ココヤシの果肉を削ったものを売っていますが、家庭で、もし、削るところからやれば、ココナツミルクができるまでに1時間以上かかります。こんな作業を日常的にやるのは、王侯貴族の家くらいのもので、ふつうの家庭では日常のおかずに食べるようなものではなかったのです。

 こうして見てくると、ココナツミルクを東南アジア料理に多用する、と考えるのは誤解のようです。ベトナムやフィリピンの料理には、ココナツミルクはあまり使われません。タイでも、北部や東北部では、料理にほとんど使わないようです。
 お菓子は、昔でいえば「贅沢なもの」。日常的なおやつといえば果物で、お菓子をつくるには、砂糖をはじめとする高価な材料と手間と時間がかかります。そうすると、お菓子を日常的に口にするのは、まず、王侯貴族たち。お菓子にココナツミルクを使うことが多いのは、ココナツミルク自体がぜいたくなものだから、というのも理由のひとつでしょう。
 農村では、お菓子は祭りの日などに作られる特別なものです。都会では、職人の手で作られ、市場や屋台などで売られるようになったので日常的な存在ではありますが、もちろんお金がなければ買えません。フィリピンやベトナムでも、お菓子にはココナツミルクを使うようです。

 いまでは、日本でさえもココヤシの果肉を削ったものが広く売られていますし、粉末のココナツミルクも手にはいるようになりました。ところが、たとえばバンコクではココナツミルクの代わりに牛乳を使うレストランも出てきたり、若い人たちはココナツミルクを使ったお菓子よりもスナック菓子のほうを好むようになっている、といいます。東南アジアならココナツミルク、というのは幻想になってきているのかもしれませんね。

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